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作者:タイツの人さん
投稿日時:2006/11/19(日) 01:27:25, 2006/11/21(火) 10:24:28
備考:遂にうづきとの決着がつきます。どこかもの哀しいラストが感慨深いです。



うづきの関心は今や完全にあしもの方へ移っていた。
ふてん丸のマラから口も手も離してそちらへ向かおうとする。
が、彼女の気紛れに戸惑っているのか、ふてん丸のほうは動きが鈍い。
「ええい、離れなさいこのヘボ!」
「へ、ヘボ? なんとも心外な…わっ?!」
痺れを切らしたうづきは無理やりふてん丸を引き剥がそうとした。
「ちょ…うづき殿、鬼の力で……」
彼女が絶妙に絡み合った姿勢から強引に抜け出そうとしたため、
ふてん丸の手足があらぬ方向に行きかけ…絞められ…
「うがががが…」堪らず間接が悲鳴を上げ、彼自身も奇妙な声を漏らし出した。
もどかしい思いをしながらうづきがふてん丸から身体を完全に離す頃には
ふてん丸は泡を吹いてしまっていた。
「あら?案外だらしないのね」
ふてん丸から身体を離したうづきは白目になり泡を吹いているふてん丸を鼻で笑った。
あしもは彼の危うげな表情を見て「うわ~」などと哀れんでいる。
「そういえば何を思って彼で遊ぼうとしたんだっけ?………ま、いいわ。さあ…あしも」
「は…はいっ!?」
目と意識をふてん丸に集中させていたあしもはうづきの何気ない呼びかけで過剰に驚いてしまった。
それを見てうづきは「なに驚いてんのよ」と不満げにしつつ汗で濡れた身体をこちらに寄せてくる。
「まだ少し気だるそうね。あたしが目覚めさせてあげるわ」
艶っぽい声音で誘ううづきを見るあしもだったが、彼女を見ることで気絶前に我が身に起きた大事を思い出しかけてきた。
たしか――そうだ。自分は彼女に…
「やっぱり貴方のを先に吸っちゃうとしましょう。つまみ食いのままではお行儀が悪いしね」
血―――血を吸われたんだった!
「わぁ!」思い出した途端にあの時首を襲った痛みと恐怖、そして何より怖かったうづきの赤い目が記憶に蘇ってきた。
「わっ!?」突然叫んだあしもにうづきまでもが驚いてしまった。一瞬ビクッと身を強張らせたその様はまるで猫のようだった。
あしもはそれまで身を支配していた倦怠感を忘れ、眼前に迫るかつての友を凝視しながら喘いだ。
呼吸は荒くなり、動悸がする。冷や汗までかき始めた。それほどまでにうづきの吸血行為は衝撃だったのだ。
「なのよ。びっくりさせてくれるじゃない」
うづきは少々不愉快そうな面持ちで乱れた長髪を手で整えながら接近を再開する。
また自分の血を吸うのか。何故友達である自分を苦しめるのか。あしもには分からない。理解の範疇を超えていた。
「ひょっとして、思い出したぁ?」
くすくすと笑う彼女は、気絶前にも思ったことだが、やはり、自分が知るうづきとは大分違って見えた。
頼れるくの一、自分より三つほど年長で忍としての心構えを教えてくれた友、先日も作戦時に不安だった自分を勇気づけてくれた仲間。
だが……今、目前で赤い目で自分を見つめる彼女は確かにうづきという名前で、
(格好が少々異色だが)その女の自分から見ても美しく整った顔立ちと体型は彼女の物で間違いない。
それでも、この女はどうしてもかつての友とは思い切れない。こんな…こんな怖いひとじゃなかった!
震える唇で、あしもは何とか言いたい言葉を必死に紡いだ。もう手が届きそうなほど傍に来ているうづきという名の別人に向かって。

「うづき様、じゃない」
「え?」
「うづき様は…うづき様じゃない!」

――この娘は突然何を言い出すのだ。
無礼な態度を示す友に対して、うづきは心外な思いだった。
いつも予想の斜め上の行動をとってくれる愉快な(逆に言えば迷惑極まりない)忍のあしも。
さっきも"微塵の術(本来なら目くらましから単純な爆破まで行える汎用性の高い技)"で自分を吹っ飛ばして半裸になって伸びた娘が…
その彼女が、こともあろうに自分を『うづき様じゃない!』などと言うとは。自分は間違いなくうづき本人だというのに。
ひょっとして記憶がはっきりしたことで逆に錯乱してしまっているのか?…だが彼女の目はいつになく真剣だった。
キッとこちらを睨んでいる彼女の姿勢は彼女を昔から知っているうづきすらあまり見たことのない精悍な様だ。
「な、なに言ってるのよ。あたしは…」
「違います!変です!」
言葉をさえぎられた。しかも言うに事欠いたのか『変』と来た。やはり彼女は予想外な子だ。誰が変だ。失礼な。
…まあ、今の自分は確かにそれまでとは違う。おうまに身も心も喰われ、その死の淵から彼女の器を奪ってまで這い上がったこの姿は、
もはや純粋な人のそれとは一線を画す存在と化している。物の怪の類といっても過言ではない。というか、この身は鬼そのものだ。
あしもはそんな自分を指して『変』と評しているつもりなのだろう。
自分の腕を見てみると、爪は鋭く尖り、手の甲には鎧めいた甲羅が備わっている。
腕自体も見た目こそ細身で女性らしい肉付きだがその実、尋常ならざる膂力を感じる。軽く拳を握るだけで認識が強まる。
少し。ホンの少しだが自分が人でなくなったことに対する自嘲が芽生えた。自己嫌悪とまではいかないが…自虐的ではある、か。
「やはりうづき様は…えと…」
…嗚呼、何故、なぜそこで躊躇するのか。少し苛立たしい。彼女らしいが。面倒なので代わりに自分が言おう。
「―――死んだ、と言いたいの?」
「え?…あ、はい」
彼女は少しだけいつもののん気な彼女に戻って、すぐ警戒の表情に変わった。
――締まらない。本当に締まらない。なんて生意気なんだろう。
愛らしく思って彼女に触れた。怖がるかと思ったが全然、臆面も出さない――可愛くない。
「ふてん丸さんの言ったことは本当でした。うづき様は、お亡くなりになったんですね」
あしもは意を決したかのように一気に言葉を吐く。ここで「お前は死んだ」と言い切れない辺りが彼女の煮え切らないところだ。
「でもあたしはこうして目の前に――」
「今ここにいるうづき様はうづき様であって…んと…別の方です!おうま様とおんなじの…お、鬼です!」
またしても言葉を遮られた。いや、叩っ斬られたようなものだ。なんて不躾な。だが、彼女の言は正しい。まったく、当たっている。
「……そうよ。あたしは一度死んだ。一度死んで、帰ってきたのよ!」

もういい。この娘は、もういい。

「彼にも言ったわ。貴女にも教えてあげる……あたしはこの力で全てに、復讐してやる!―――あんたも、例外じゃないわ!」

「――聞いたぞ妖怪…鬼の本性見たり!」
うづきの背後から声がした。男の声―先ほどまでだらしなく気絶していたはずの…ふてん丸の叫びだ。
あしももうづきも不意を突かれた。特にうづきはあしもに集中するあまり、完全に無防備になっていた。
如何に鬼の感性が常人の何倍も鋭かろうが気づきさえしていないものに反応は出来ない。
その細身の撫で肩に三角に尖った石がぶつけられる。肩口は甲羅が防備されているため「かーん」という硬質な感触が彼女に伝わった。
「所詮は妄執の虜か。見下げ果てた物よの、うづき殿!」
ここでようやくうづきの視界にふてん丸が入った。彼はしっかりと覚醒していた。目にも力がこもっている。
格好は先ほどと変わらぬ忍び装束だ。先の愛撫での着衣の乱れはいつの間にか正されている。素早い奴。
「いつ目覚めたのよ」
「俺は始めから気絶などしておらん」
真顔で言うふてん丸だが、実はあの時は本当に意識が飛んでいた。泡は本物だし窒息しかけていたのも事実だ。
だが隠す。今はそんな過去の些事など本当にどうでもよい話であり、うづきの本音を再び耳にしたことの方がはるかに重要なのだ。
友の前で堂々と復讐を主張したうづきの浅ましさ、力が彼女を狂わせた決定的瞬間を掴んだ時でもある。
「どうやら遊びが過ぎたようね。殺してから相手を取り替えるべきだったかな」
鋭く長い爪を更に伸ばし、その手に舌を這わせながらうづきが静かに威嚇する。赤い目にたちまち憎しみの火が灯る。
振り返り様に空いた手でサッとあしもの腕を撫でた。それは風が通り過ぎるかのような速さで、あしも自身にはほとんど見えなかった。
手を振り切ったうづきの爪の先に振る前まで無かった赤い塗料が付着している。ふてん丸はすぐに気づいた。血だ。
あしもは遅れて「あっ」と驚いた。うづきに撫でられた腕に小さく細い引っかき傷が出来ている。
「痛っ…」痛覚が切り傷の痛みをあしもに教える。彼女の目の端に涙がたまる。
うづきはその様子を横目でチラリと見た後、すぐに視線をふてん丸に戻しながら爪に付いた血を舌で舐めとった。
まだ暖かい、その生き血を喉に通して、うづきは恍惚を顔に出し、同時に狂気を滲ませる。
「そこまで堕ちたか」
ふてん丸はそう言ってどこからかクナイを一本取り出して逆手に持つ。
「隠し芸が得意なのね。忍だから十八番でしょうけれど…」
わざとゆっくりした口調で挑発気味に喋る。ふてん丸は彼女の言葉を無視して構えに集中する。
「さっき思い知ったばかりじゃないの?」
うづきも戦闘の体勢に移る。上体を沈ませ、猫のような形をとる。あしもは尻が突き出されて見えて目のやり場に困っている。
だがうづきは取り合わない。背中であしもが怯えているのを感じとりつつ、ふてん丸への戦意を湧き立たせる。
先ほどは容易く圧倒できた相手だ。だが今度は決意めいた様子が窺える。何か手があるのかもしれない。必殺を心がける覚悟を決めた。
ふてん丸は先の一戦を脳内で再現し、彼女の読みにくい動きをどう捌くかに神経を尖らせた。下手をすれば即死は免れない。
「では、参る!!」
ふてん丸が動いた。同時にうづきも跳ねる。あしもは――座して事を見届けるしかないようだ、と思った。

刃を手にしているとはいえ、クナイのそれは短い。相手の爪の方が尺がある。既にこの時点で相手に分がある。
こちらには術を含め隠し玉がいくつかある。が、忍術は相手も知るところ。下手な手は読まれ、命取りになる。
ふてん丸は闇雲に攻めることをせずに相手の攻撃の前後の隙を探ることにした。
うづきも忍の出方は熟知している。こちらの隠し芸は何もないが、肉体の力だけで十分"釣り"が来る、はずだ。
疲れを感じる心配はないだろう。後は如何に巧く立ち回りヘマをせず相手を仕留められるかという事に集中するのみだ。
足捌きはどちらも忍のそれだ。無駄な音を立てない軽やかな足運び。辺りは石や牢の破片がゴロゴロしているというのに
二人ともまったく気にする風にない。あしもだってくの一だが彼らほど見事な動きは到底できそうもない。ただただ感心するばかりだ。
速さは超人的な体力を誇るうづきの方が上だ。ふてん丸の周りをぐるぐると駆けずり回る。
ふてん丸は不要な前進は避け、背後だけはとられないようにと懸命に方向を合わせる動きに徹した。
「WWWRRRRYYYYYYAAAA――ッ!!!」
耳をつんざく金切り声。鬼と化してからの彼女独特の奇声と共に、無数の突きがふてん丸に襲いかかる。
黒く変じた爪の、針の山と称するに値するほどの攻めはしかし、ふてん丸に一つとして当たらない。
たんなる連打ではなく、そのどれもが必殺の一撃、ふてん丸の胸を狙ったものであることを即座に察知した彼はその矛先を
僅かに身体をずらすという最小の動きをとることで全ての殺意を中空へと放たせたのだ。
再び素早い周回を再開するうづきの目にも留まらぬ残像の中から「チッ」という舌打ちが聞こえた気がした。
と、すぐさま次の一手が打たれる。側面を八つ裂きにせんと第2の針の山が降りかかり、ふてん丸の視界の半分を埋めた。
瞬時に反応して上体を屈ませ、低姿勢のまま摺り足でその場を退く。ついでにクナイで横をなぎ払ったが、既に彼女はいない。
それどころか……少なくとも見渡す限りの視界にうづきの姿はない。
あしもがどこかで「あっ!」と驚きの声を上げたのと、ふてん丸が悪寒を感じて飛び退ったのはほぼ同時だった。
上からうづきが降ってくる――恐るべき速度で天井に張り付き、そのまま跳躍したか。ふてん丸は冷静ながらも驚きを禁じえずにいた。
バン、と叩きつけられる拳。頭蓋を砕く一撃のはずだったそれは牢屋の粗雑な石畳を代わりに粉砕した。
膝を曲げた着地の姿勢から速攻で足が飛んでくる。ふてん丸は驚きを吹き飛ばしてその場から跳躍し、槍の如き蹴りを避けた。
だがふてん丸の足の裏が再び石を踏む頃にはうづきが立ち上がり次の回し蹴りを放つところだった。
受け止めようとすれば骨を砕かれるかもしれない一撃。先のおうまの恐ろしいまでの戦闘力を思い出してふてん丸は再び避けに専念した。

休む間もない応酬にあしもはただただ呆然とするしかない。開いた口が塞がるいとまもない。
恐ろしい光景だ。自分なら何度死んでるだろう。うづきは自分に対してもあのように爪を振るうのだろうか。
先ほどああは言ったが、やはりあしもにとってうづきはうづきだ。獣が如く疾駆する姿を目の当たりにしてもその認識だけは不変だ。
だがどこかで終わりは来る。どのような結末であれ、いつかは自分が動かねばならない事態が、すぐそこに迫ってきているのだ。
うづきの勝利はあしもの死に繋がる。それすなわちふてん丸の死が前提にあることは言うに及ばず。
ふてん丸が勝てば――自分はどうなるだろう。それは今現在の自分には判断できない程の未来だ。
ひょっとしたら、やはりその先に死罪が待つのかもしれない。でも――…

「RRRRRRYYYYYYY―――ッ!」
うづきの切っ先がついにふてん丸の太腿を引き裂く。だが彼も負けじと刃で自分を斬りつけたうづきの手の甲を掻き切った。
「ぐっ!猪口才(ちょこざい)なッッ」
「ふっ!はっ!どうだうづき殿!」
「GUUUUUAAAAA―――ッッ!無駄無駄無駄ァァッッ!」
今度は拳そのものが振るわれる。鉤爪付きの抜き手による乱打が目の前一杯に広がる。
怒りと憎悪で歪んだうづきの鬼気迫る様に戦慄を覚えつつ、後退するふてん丸は避けるだけでなく突きの限界点に自身の刃を合わせ、
その指先を切り裂いた。緻密な反撃でうづきが怯む。指先が2つ、爪ごと切り落とされ地面に落ちた。
「どうだっ!」とばかりに勝ち誇って見せるふてん丸。もちろん虚勢だ。まさか当たるとは思ってなかった。
だが目は恐るべきうづきの生態を捉える。…指先がすぐに"生え変わる"!!――やはり化け物だ。
一拍おいて「KWAAAAッ」と牙をむいて襲いかかるうづき。後方に余裕が無くなり、相手の身体を引かせるために蹴りを放つふてん丸。
当てる気もなく、けん制のつもりだったその脚をうづきはサッと掴んで彼の体ごと捻るように払った。
ふてん丸はたまらず転倒する。恐るべき動体視力だが、脚を切り落とされなかったのは幸いだ。
その場で身体を回すふてん丸に容赦なく抹殺の一撃を放つうづき。女の細腕が鞭のようにしなり…刀へと転じる。
空を切り裂き肉を貫かんとする攻撃を脇に逸らしたふてん丸は飛び退きながらあらかじめ口に含んだ含み針を放つ。
五本ほどの縫い針のようなそれは、うづきの眼前で全て横っ面を打たれて叩き落された――小細工は効かない。
先のおうま戦は反応や動作は鋭かったが、攻めや守りは大胆かつ荒々しかった。が、うづきはその点まったく違う。
見事にして華麗、そして鮮烈。正面切って挑んでこの様だ。そろそろ術を併用しないと身が持たない。だが使える手が無さすぎる!
こんなことならもっと修行するべきだった、などと一瞬でもふてん丸が考えた隙に横腹を蹴りが襲う。
即座にクナイを突き立てることで振り抜かれるのを防いだ。だがクナイは彼女の脚に突き刺さって持っていかれてしまう。
あっと思った時にはうづきがクナイを投げて返してくる。首を傾げてなんとか避けたがクナイは背後の石の壁に見事に刺さった。
――抜いている暇は、ない。すぐに次を取り出……そうと試みたところで、うづきの凶悪な爪が迫ってきた。
流石に呆気にとられたふてん丸はやや慌ててその一撃をかわそうとしたが脇腹をかすってしまう。
零れる血。だが苦しむのは後でもできる。使えるものを。できることを。するべきことを優先すべき。
はっと思いついたふてん丸は意を決して小袋を取り出す。中には細かい紙きれが多量に仕込まれている。
「くっ。忍法・雪木がらし!」
そう叫びながら紙をうづきに向けて散布する。紙は紙吹雪となり、更にふてん丸の術によって勢いを持って襲いかかる。
つむじ風が吹雪を帯びて彼女の身を覆っていく。本来なら紙が含んでいる薬(麻痺薬の類)が相手の動きを奪うのだが…
「こんなものが効くとでも!」
小賢しい反撃を嘲笑ううづき。全然効いていないようだ。心底呆れながらもふてん丸は次の手を打つ。
「まだ終わらん!忍法・コマまわし!」
瞬時に相手の懐に飛び込んでうづきのたわわな胸と腰のくびれ辺りを手で撫でるように――それでいて素早く薙ぎ払った!
座興で使う忍法・コマまわし。紙吹雪に覆われたままのうづきがその場で独楽のように回る姿は見ていて滑稽だ。
うづきは鬱陶しそうに身を守るも、なすがままになっている。目を回すことも平衡感覚を失う様子も見受けられない。
そろそろ仕上げか、ふてん丸は自身の最高の技に賭ける決意を固め、彼女を回しながら手で韻を結んだ。

あしもの目前でうづきが紙吹雪に覆われ激しく回転している。その周りをふてん丸が高速で回りながらなにやら術を呟いている。
うづきはいい加減、彼の稚拙な策が邪魔で邪魔でたまらなくなってきていた。発憤して叫ぶ。が、
「くううううううっ!なんのつもり―――」
「忍法・カマイタチッ!」
彼女の抗議をふてん丸が殊更大きい声で強力に遮った。それとともにうづきを包む風が勢いを増し、切り裂く刃と化す。
「―――ッッ!?」
気づいたときにはもう遅かった。眼前を舞う紙吹雪が次々に風に引き裂かれていくのを彼女は見た。
さらにふてん丸が放つ塊のような疾風が彼女の身を吹き飛ばす。うづきの体が"カマイタチ"となった風に切り刻まれいていく。
無数の無形の刃による斬撃。鬼といえど見えないもの、掴めないものは壊せない。風は彼女の防御を素通りし、身を守る鎧も裂いていく。
「きゃああAAAAAAッ!!」
そのあまりの衝撃にたまらず悲鳴…らしき叫びを上げるうづき。
紙吹雪はもはや散り散りになり、身体中を傷だらけにした彼女の肢体が露になる。
身を包む鎧以外は裸同然の彼女は完全に"風に晒されている"状態だった。斬られた所には普通の人間と変わらぬ血が流れる。
だがまだ、致命には至りそうもない。巻き込まれながらも、うづきは見えない攻撃に抵抗している。
遂に彼女の身体が地に着いた。どうと倒れて、風が止み、凄絶な技が終焉を迎え霧散していく。
白亜の舞は最期には赤い血の輪舞になっていた。凄惨で美しい光景は牢内を朱に染めて消えた。
だがうづきは止まることは無かった。むくりと起き上がる最中にも細かな傷が目に見える速度で塞がっていくのが見えた。
「お、お、おのれぇぇぇ!!」
ボタボタと血を滴らせながらうづきが怨嗟の声を上げる。流石に痛むのか、動きが鈍っている。
なんとか立ち上がろうとしている彼女に、ふてん丸ではない、第2の方向から何かが投げ込まれた。
「―――あしも殿ッ!」
ふてん丸の声にうづきもあしもを見た、いや、半ば八つ当たり気味に睨みつけた。
だが彼女の瞳が彼女を映す刹那――この時彼女は迂闊にも投げ込まれた物への注意を怠っていた――袋が炸裂した。
黒い粉が飛散し、瞬間的に火花が散る。閃光は僅かに瞬いたのみ、破裂も小さく、ささやかな抵抗かと彼女が判断しかけた次の瞬間、
彼女の身体に付着した黒い粉、特殊な火薬が勢いよく燃え始めた。
「なっ!…UUUOOOOHHHHHH―――ッッ!」
あっという間に火達磨になるうづき。ふてん丸も呆然とその様を見つめるしかない。
腰まで垂らしていた馬の尾の如き金髪にも火が移って燃え上がり、チリチリになっていく。
「新手の微塵の術か!だが何処に火薬を――いや、なんとなく想像がつくが、とにかく今だッ!」
好機を逃さずクナイを抜き、燃え上がるうづきの胸に向けて投げ放つふてん丸。

クナイは、確かに彼女の胸の谷間、その中心付近にズブリと突き刺さった!

「ぐっ!がはっ…!?」
喉を焼かれ咳き込むうづき。
それとともに火が衰えていく。その熱は鬼の身体を持つうづきを焼き尽くすには至らなかった。
だがわずかに黒く焦げた彼女の胸にはふてん丸の放ったクナイが突き立てられている。骨を避け、肉に深く食い込んでいる。
それを信じられないといった風に見つめていた彼女の瞳から力が抜ける。苦悶の表情が緩み、身体が後方に倒れていく。
やがてその場で仰向けに倒れたうづきは四肢を力なく投げ出し、荒い息も胸の上下も弱まっていった。
「…終わった、の、か?」
ふてん丸は恐る恐る確かめるようにうづきを覗き見た。
美しかった彼女の体は切り傷と火傷と、その損傷によって彼女が流す赤い血によって見るも無残な姿となっていた。
特にクナイの刺さった胸の出血は酷い。明らかに致命傷だっただろう。
「今の彼女にはおうま殿の言っていた"命の予備"はないはず。彼女の命を散らせば、鬼は死ぬ」
うづきの顔は生気も気迫も抜け、赤い瞳は虚空を見つめたままで止まっている。半開きにの口からは恐ろしげだが小さい牙が見える。
どうみても死んでいる。ふてん丸はそう認識し、思わぬ手助けをしてくれたあしもに礼を言うために彼女から離れた。
あしもは目覚めたままの、座り込んだ姿勢のままでふてん丸とうづきを交互に見比べている。

…とんでもないことをした気がする。あしもは自身の行為に恐れおののいていた。
奥の手を思い出して(恥ずかしかったけど)なんとか取り出し、必死の思いで点火して投げた。
それは始めに袋に仕込んだ火薬で爆破して更に中身に仕込んでいる別の火薬を相手にぶち撒け、爆破時に火が着いていたそれらが
連鎖的に火を噴き相手を火で包む……という複雑な代物だった。
当時は「操の危機にこれを」などと上忍の人に冗談交じりに渡された物だったが、思わぬところで役立ったものだ。
だが想像以上に効果が出た。あんなものを隠し持っていたなどと、しかも文字通り"肌身離さず"潜ませていたなどと…
しかも相手はうづき…様。結果的にとどめをさしたのはふてん丸さんだったが、自分が彼女の死に手を貸したのは事実だ。
彼女に殺されたくない――その思いが自分を動かした。二人の鬼気迫る戦いぶりから受けた衝動も後押ししたのだろう。
そして今、うづき様は地面に倒れ、少しも動く風にない。どうやら今度こそ、
「!! ふてん丸さ――……!」
「…ん?」

ずぶ…と、鋭くも鈍く、残酷な音をあしもはしっかりと耳にした。
ふてん丸の胸から黒い何かが突き出るのを…はっきりと目撃した。

紅い瞳が、赤く彩られた世界を映し出す。
視界は真っ赤だ。火事だろうか。いや、確かに。確かに火事だったとも。
燃えていたのは自分。燃やしたのは…燃やしたのは誰だ?ふてん丸ではない。彼は我が心の臓を撃ち貫いた。
だが彼奴ではない。では誰が。誰がおる。
「この豚がAAAAAHHHHHHッッ!」
血反吐をぶち撒けながら怨嗟と殺意と破滅を吐き出す。目の前に憎っくき雌がいる。呆然と、だが泣きそうな顔でこっちを見ている。
こいつだ。こいつが。『うづきは死んだ』と言った。そうだ。だからあたしを火葬にかけようとしたのか。許せない。許せないッ!
「ぶっ!ぶがはっ!」
眼前の、ついさっき突き刺して見せたこの馬鹿が醜い声を立てて、自分と同じようにして血を吐き出す。
邪魔だ!邪魔だ!クソ虫が!あたしは、復讐するんだ!全てに!自分をこんな目に遭わせたもの全部にッ!
ふてん丸、貴様など我が糧になど絶対に値しない。このまま命尽きるがいい。さぁ逝け。今すぐ旅立て。
「な、なっ!?……う、うづきィィィィ!!」
ついに殿を捨ててあたしを呼び捨てか。汚らしいクソが!
憎くて憎くてたまらないので突き刺した左腕に力を込める。彼の屈強な背を容易く貫通した腕は、やはり簡単に通っていく。
勢い余って肩まで入ってしまった。自分の大きめの胸が彼の血塗れの背に当たる。構うことはない。このまま死ぬまでこうしていよう。
次はあしもだ。彼女を食い殺し、喰い散らかす。そして彼女は我が糧となり未来永劫苦しみ続けるのだ。いい気味だ。本当に!

ふてん丸は自分の身に起きた決定的な事態を、意外にも冷静に受け止めていた。
苦しいという範ちゅうなのだろうかと思えるほどの痛み。即座に意識はあの世へと向かいそうだが必死に堪えた。
必死、可笑しなことだ。心臓はとうの昔に使い物にならなくなってしまっているというのに。
いずれ必ず死ぬというのに、必死になる自分。こいつはお笑い種だ。あしもにも教えてやらないと。これはきっと"受ける"。
だが彼女は泣いている。それはそうか。目の前で命の恩人が死にかけてる。しかも背後に鬼が睨んでいる。これは、かなり怖い。
だがこのままうづき殿を野放しにする事は出来ない。彼女は自分の背後で世にも恐ろしい怨み節をぶつぶつと呟き続けている。
…やはりうづき殿はもういないのかもしれない。後ろで延々と呪詛を吐き続ける彼女はやはりただの鬼に過ぎないのだ。
自分は陰陽師でもないし僧でもない。だがこの鬼めは祓わないと。何としてでも。
どうせ自分はじきに失う物が無くなる身なのだ。何を惜しむことがあろう。

「ああ…あああああ……」
自分は、やはり無力だ。あしもは頭を小突きまわしたい気持ちで一杯になっていた。
いずれにせよ神速を誇るうづきの突きをふてん丸が受けることを止める術はなかったろう。
だが、悔しい。それに、彼が目の前で今にも死にそうになっているのを見るのが辛い。でも目は逸らせない。
これほどまでに立て続けに凄惨な現場を見たのはこれまでの人生の中でも初めてだ。
あんまりにも哀しくて涙もどんどん出てくるし嗚咽も止まない。ふてん丸から見れば、とても酷いくしゃくしゃな顔に見えるだろう。
うづき…は凄い形相でこちらに向けて何事か聞き取れないことを次々に口走っている。多分すごく酷い悪口なのだろう。
と、ふてん丸が笑っている。なんで笑っているんだろう。とても痛いはずなのになんで彼は微笑んでいるのだろう?

ふてん丸の心配事は二つあった。一つはあしもの事。間違いなく自分はいなくなる。彼女はこの場で独りになってしまう。
なんとかなるだろうか。なってくれると嬉しい。誰かがいてくれるとなお嬉しい…もちろんうづき殿は除外して、だが。
そしてもう一つ。実はこっちのほうが心配だ。果たして出来るか。"素手で"など初の試みだ。
「ふてん、丸ウウゥゥゥ!!」
背後で相変わらず怨嗟が聞こえる。飽きない娘だ。そういえば胸が背に当たって気持ちいい…。悪くない。
「……っ」
なんとか言っておけることを言っておかないと。声に出そうとしても胸や肺に穴が開いては喋れたものじゃない。
血だけならどんどん出る。あしもが浴びたら可哀想じゃないか。なかなか声を出してくれない喉が恨めしい。
「…っ!……はっ……あっ!……あぃし……」
なんとか足掻いてみる。幸いにしいて、あしもがこちらの意図に気づいてくれた。恐る恐る顔を近づけてくる。血が彼女の頬にかかった。
「あっし……も、……どうか……ッッ」
ずぶ。うづきの腕が回る。まずい。抜く気か。ここで剣を抜かれるわけには行かない。
奇妙な閉塞感が抜け、異常な解放感が身体を駆け巡る。栓が抜けた気分だが、最後の好機と見た。気力を振り絞り叫ぶ。
「……あしぃも……殿ッ……生き……延びられよ……」
ぎりぎりで言いたいことが全部言えた。無事伝わったようであしもは涙を流しながらうんうんと頷いてくれた。
まだ後ろで鬼が騒いでいる。それを疎ましく思う気持ちもとうに擦り切れた。彼女を"連れて行って"やらないといけない。

ふてん丸は最期にあしもに向けて「ニッ」と笑ってみせた。呆気にとられた彼女の涙が一瞬止まる。
――それだけで十分だった。

("忍法・影一文字")……声ではなく、心でそう念じた。

次の瞬間、腕を抜き放ち狂気の笑みを浮かべたうづきの、その狂える美貌が固まった。
喉を何か鋭利なもので深く斬り――いや、抉り取られた。
よく見ると、ふてん丸の手が、彼の手刀が血に染まっている。誰の?…彼のじゃない?
―――それきり、彼女は考えることが出来なくなった。

どさり、と一対の男女が血に染まって倒れ伏す。あしもはその一連の惨劇に心を奪われていた。
眼前の二人、折り重なるようにして死んでいるうづきとふてん丸。
あしもは泣き腫らした顔で二人を見つめ続けた。他に、することが思い浮かばなかった。

………。
どれだけの時がすぎただろう。どのくらいの間こうしていただろう。
目を開けると視界が少し明るかった。よく観察してみると牢内に入る光が明るくなっているのに気づいた。
どうやら、少し眠ってしまっていたようだ。全てが終わって気が抜けたのかもしれない。
目の前を見た。そこには変わらず二つの遺体があった――もう彼らを前に涙を流すことは無かった。
この牢の中で何人の命が尽きていっただろうか。おうま、おうまの中の魂たち、うづき、そしてふてん丸。
自分を残してみんな逝ってしまった。この先、自分はどうすればいいだろうか…。
(あしも殿、生き延びられよ…)
脳裏にふてん丸の言葉が浮かんだ。実際は血を吐きながらの、とても聞き取りづらい声だったが、あの時は確かにはっきりと聞こえた。
「…そうだ。行かないと」
彼らの闘いの間、ずっと抜けっぱなしだった腰が軽々と浮いた。幾分か疲れが取れてくれたようだ。
なんとか立ち上がって、おうまが亡くなった時にふてん丸が導いてくれた出口への階段に足を踏み入れる。
そこは牢の中と同じく石造りの、粗雑なものだったが上がるのは苦にならなかった。
最後に、背後の二人に向けて手を合わせ、地上を目指す事にした。

地上に出るまでさして時間はかからなかった。出口の戸は開いていて(おうまが壊した錠が壊れて落ちていた)、すぐに出られたのだ。
出口付近にはボロが一着捨てられていた。今の格好よりマシだろうと思い、あしもは着替えることにした。ちょっとホコリ臭い…
そうしてボロを纏って地下牢を出てみると…一面に青々とした草むらが広がっていた。さらに目の前には海が見える。
「え…?」
あしもは意外な光景に圧倒されつつ、辺りを見回してみた。草むらはすぐに途切れ、僅かな砂浜が後に続いていた。
一通り歩き回ってみると
「ここは…離島だったの~…」
あしもが呆然とそんなことを口にした。見上げると綺麗な蒼天が限りなく天の果てまで広がっている。夜は完全に明けていた。
そしてあしもはすぐに接岸されている小船に気が付いた。2隻…おうまとふてん丸のものに違いない。
足が見つかれば後は行動するのみ。幸いにしてそう遠くない距離に陸地が見える。長い航海は必要なさそうだ。

「向こうに着いた後のことは後で考えよう。まずは、行かないと」
あしもは船の一つ――偶然にもふてん丸のものだ――に乗ってゆっくりと漕ぎ始めた。
頼りない動きだが、船は彼女に応じて少しずつ岸を離れていった。

やがて…日の光が見守る中、なんとか対岸に着いたあしもは、もと来た島をしばらく眺めた後、何処かへと去っていった。

 ~完~
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【2011/08/25 00:55】 | #[ 編集]















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